言葉を超えて、アートでつながる
- 華穂 松田
- 6月8日
- 読了時間: 6分
ーアーティスト・古川さんが作り出す人と人をつなぐ、アートの力とはー

アーティストとして活動する一方、東京藝術大学で特任助手も務める古川実季さんにインタビュー。
制作の根底にあるのは、アートを通じて他者と関係を結ぶという姿勢だ。人との関わりのなかで生み出される古川さんのアートに対する想いを紐解く。
◼︎作家プロフィール古川実季(Miki Furukawa)
1998年熊本県生まれ。
東京藝術大学大学院 美術研究科 先端芸術表現専攻修了。
在学中に、メキシコ・エクアドルに留学し、織物芸術や多様なコミュニケーションのあり方について学ぶ。
現在は東京藝術大学の特任助手として、「ケア×アート」をテーマに「多様な人々が共生できる社会」を支える人材を育成するプロジェクト「DOOR」に関わる。
主な制作活動として、糸を介して異なる言語を持つ他者との対話を試みる《もうひとつのことば》など。
工作が好きだった子ども時代

古川さんが美術に興味を持ったのは、ごく自然な流れだったという。
「小さい頃から絵を描いたり工作することが好きでした。紙とハサミとセロハンテープがあれば、なんでも作れると思っていました」
コピー用紙や裏紙を使い、小さな箱をいくつも作っては理想の家の間取りを考える。そんな遊びをよくしていたという。
出身は熊本県。美術科のある高校に進学し、そこで本格的に絵を描くようになった。
大学は東京の教員養成に特化した大学へ進学し、美術教師になる課程で学んだ。
「美術を教えることも楽しかったのですが、学校の外でも、子どもからお年寄りまでいろいろな人と関われるアートのあり方をもっと考えたいと思うようになりました」
誰かに教えるというより、同じ方向を見て一緒に探求する。その感覚が現在の活動の軸になっているそうだ。
子どもたちの想像力に驚かされるワークショップ

古川さんは、各地で行われた様々な方を対象としたワークショップも開催している。その一つとして、糸電話を使った親子向けのワークショップがある。
内容は、まず参加者同士が糸電話で声を聞き合い、その声から受け取った印象を色や形に置き換えながら、紙コップを装飾していくというものだ。
「子どもたちの発想は、本当に想像を超えてきます。『青が好きだから』ととにかく青いものを集め始める子もいたりして。最初のテーマからどんどん広がっていくんです」
ワークショップでは、子どもの自由な発想をどこまで導くべきか迷うこともあるという。
「枠の中を意識したほうがいいのか、それとも今の楽しさを大事にするべきなのか。その迷いも含めて、子どもたちと作ることの面白さだと思っています」
孤独のなかで知った、誰かと関わることの力
古川さんの活動の背景には、高校3年生のときに経験した熊本地震の記憶がある。
当時、震源地となった益城町で暮らしていた古川さん。家族は無事だったが、周囲が大きな被害を受ける中で、強い孤独を感じたという。
「みんなが苦しんでいるのに、自分は助かっている。その状況に対して、なんで自分が助かったんだろう?という思いが募り、しんどくなってしまいました」
そんなとき参加したのが災害ボランティアだった。
がれきの撤去作業を手伝ったとき、家主の方から「ありがとう」と声をかけられた。
「その言葉に、むしろ私のほうが救われました。ここにいていいんだ、と思えたんです」 人との関わりが心を支える。その経験は、今の活動にもつながっているという。
言葉が通じない南米留学での挑戦


大学院では東京藝術大学に進学。その後、メキシコとエクアドルに約10か月滞在した。
「アートは非言語的なコミュニケーション手段にもなりうると思っていて、言葉が通じない場所でどこまで人と関われるのか探ってみたかったんです」
現地では、ガラス越しに絵を描きながら交流する「コミュニケーションペイント」や「gift」というプロジェクトも行った。
「gift」というプロジェクトでは、相手から思い入れのある写真を預かり、そのエピソードを聞きながら写真をコラージュして描かれた肖像画を贈り、お返しとして、相手には得意なことをしてもらうという活動だ。
「ケーキを作ってくれたり、演奏をしてくれたり。エクアドルでは突然マリアッチの楽団が家に来て演奏してくれたこともありました」
南米留学での経験を通して、言葉が通じない中でもアートを通した繋がりを強く感じられたという。
関係を編む——糸から生まれたもうひとつの言葉


メキシコ滞在中、先住民族の女性から手織りを学んだ経験は大きな転機となったという。
「糸が少しずつ重なり、やがて布になっていく過程を見て、人間関係にも似ていると感じたんです。時間をかけて、関係が編まれていくような感覚がありました」
さらに、耳の聞こえない友人との出会いもあった。二人は共通の言語を持っていないと思われた。それでも不思議と打ち解けてしまう感覚があり、古川さんは次第に友人のことをより知りたいと感じるようになった。その経験が《もうひとつのことば》という作品の出発点になっている。
「言葉ではなく、糸を使ってコミュニケーションをする作品です。私ともう一人の参加者が一緒に刺繍をしていくことで、関係性が形になっていきます」
糸が重なり、やがて布になる。その時間の積み重ねは、人と人の関係が少しずつ築かれていく過程にも重なるという。
アートを、ひらかれた居場所として
今後の目標は、地域に開かれた造形教室のような場所を作ることだという。
「教室というより、誰でもいられる場所。ある日はカフェになったり、演奏が始まったりするような、複合的な空間を作りたいと思っています」
最後に、古川さんにとってアートとは?
「一言で言うのはとても難しいですが、強いて言うなら、地に足をつけて、豊かに生きていくための術だと思います」
複雑に絡まる感情も、絵や言葉にすることで向き合ったり整理したりできる。アートは、自分の中にある誰にも奪われない居場所でもあるという。
人と人のあいだに生まれる、小さな対話。
古川さんの作品は、そんな瞬間を静かにすくい上げている。
〈編集部後書き〉
アーティストインタビュー第1回では、.axusとして2024年12月のイベントで作品展示をいただいた古川さんにお話を伺いました。
古川さんの留学や制作活動におけるご経験はとても興味深く、共通してアートに対する古川さんの前向きな想いを感じられました。また、人との関わりを通して丁寧に生み出される作品だからこそエネルギーが感じられ見る人の心を強く惹きつけられるのだと感じました。これから古川さんがどのような作品や場を生み出していくのか。その歩みを、これからも楽しみにしています!

コメント