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「現在と未来、その境界で」

更新日:1月8日

Quarterlife: Dawn — Performance Report by Mashiro Takahashi


2025年12月、20〜30代の多くが直面する心理的・社会的転換期「クォーターライフクライシス(QLC)」をテーマにしたパフォーマンス作品 「Quarterlife: Dawn」 が上演された。本作は、経験や知識が指針にならず、熱意や衝動だけでは前に進めない──そんな揺らぎの只中にある身体や意識を、舞台空間を通して体現する試みである。観客は、同時代を生きる他者の身体の動きと重なり合うことで、自身の〈現在〉と〈未来〉の境界に向き合い、答えなき時間の表層をじっと感じ取る体験へと誘われた。


Photo by アラキミユ


20〜30代に訪れる心理的・社会的転換期「クォーターライフクライシス(QLC)」に着目した本作は、自意識の揺らぎを主題とする。情熱や衝動だけでは進めず、かといって経験や知識が必ずしも指針にならない。選択肢が増えたはずの時代において、かえって自己の輪郭が曖昧になる。本作は、そうした人生における静かで重圧なQLCの過程を、身体を用いて表現していく。


Act. 1



変わり映えのない日常の様子を語る声と共に垂れ下がる半透明の幕の前で、7人のパフォーマーが身体を操りながらやがて一列に並ぶ。最後の一人が揃うと、幕は落下し、彼らの身体を包み込む。視界が遮られ、個人の語りは重なり合い混沌とした空間へと変化する。



パフォーマーの動作の反復は、前に進むことも、立ち止まることもできない移行への初動を想起させる。そして、同じ空間に同居する観客も、他人の身体を介してQLCを追体験する。観客はその時間の中で、自身の現在地と静かに向き合うことになるだろう。


Act. 2



舞台は一転し、地面にモノが散乱する混沌とした空間が現れる。

やがて、空間を表すようなノイズが鳴り続け、秩序や意味が解体された空間が持続する。


パフォーマーたちは、その中でもう一人の自分と分離するように、もがきながらただひたすらに身体を動かし続ける。



終盤の暗闇の中で衣服を脱ぐ行為は、社会的役割や期待、他者から押し付けられる自己像といった外側の層が削ぎ落とされ、残った自分自身との対話へと辿り着く過程として受け取られる。


Overall



本作において、QLCは解決すべき課題などとしてではなく、むしろ終わりのない迷いや停滞、自己への疑念に向き合う時間として表現されている。現代では、若者に立ちはだかる不安や揺らぎは「乗り越えるべきもの」として語られがちだが、彼らの表現は、答えを急がず、未整理な状態にとどまること自体を許容する態度のようにも見えた。



また、転換期における「閉じ込めー分離ー探索ー再構築」といったプロセスは、人生において「自分らしさとは何か」を問い続ける限り立ち現れる。その度に、再構築はゴールとして訪れるのではなく、新たなスタートへと移り変わり、新たな転換期が待っていることを示唆しているようにも感じた。だからこそ、自分の現在地を問うことで前進できるのかもしれない。



動いてはまとわりつく様々なモノが重荷となればそれを脱ぎ、また動き出す。その循環から取り残されぬよう、自分自身が動けなくならないよう、人は自分の身体に耳を傾けながら命を生かし続ける。動物が強者から逃げるように、人間もまた、見えない不安から身をかわすため、体と心を使って自分らしさを体現するのではないだろうか。



私自身、まさにQLCに該当する世代としてパフォーマンスを鑑賞している中で、この転換期について「理解」をしようとするよりも、彼らと同じ速度で呼吸し、同じ停滞を共有している感覚に近かった。答えが示されないまま時間だけが過ぎていくこと。その感覚が、なぜか自分だけのものではなかったことが、鑑賞後の感覚として強く残っている。



Act.1で語られた日常から感じる虚無感のようなものは、特定の個人の内面ではなく、同時代を生きる者の多くに共有された感情として代弁されているように聞こえた。内面と外面、個人と社会、現実と理想といった境界は、半透明の幕のように時には不安に、時には希望として纏わりつく。夕暮れの後には必ず朝日が昇るように、人生は光を求めた終わりのない時間の旅と言えるかもしれない。


髙橋 真白


◼️Overview

Quarterlife: DAWN

日時:12.13 Sat 15:00 / 12.13 Sat 19:00 / 12.14 Sun 13:00 / 12.14 Sun 17:00 (上演時間90分)

会場:若葉町ウォーフ

住所:〒231-0056 横浜市中区若葉町3-47-1


◼️Credit

作・振付:菅原圭輔

出演:Akiko, 巖本真理, 江川未彩, 奥村萌依, 清田鮎子, 佐藤実祐, 柴田桜子, 田代一裕, Ain Tominaga, 原知里, Evgeniia Boliachkina, 三宅もめん, 山岸詩音

音楽:Novatron

セノグラフィー:Mizuki Suda

照明:福永将也

音響:Ayumi Nakamura (Walm)

舞台監督:佐藤麻菜

ドラマトゥルク:宮悠介, 髙瑞貴

ビジュアルデザイン:小林紗也

記録映像:熊谷悠真

記録写真:アラキミユ

PR コミュニケーション:波潟希美

翻訳:田村由以


主催: KruK

衣装提供:株式会社Tani Japan

協力:.Axus, Nordisk Teaterlaboratorium “West Hive”, NOTOつなげて広げるプロジェクト, Studio REIMEI, Theaterhaus Berlin, WAKABACHO WARHF “pàlina”

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Keisuke Sugawara

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